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日誌。

 
10
 
2014


 日本に住む懐かしい友からの小包は、数枚のディスクだった。
 添えられていた手紙によれば、手狭になった研究所の増改築を前に記録類を整理していたところ、
貴重な映像資料が見つかったのだという。
 記されたディスクの内容に、すぐにでも片っ端から再生したくなる気持ちをぐっと抑え、
烈は時計でおおよその待ち時間を確認した。1枚観終わる前には、多分帰ってくるだろう。
「……うん、どうせなら一緒に最初から観たいし」

 もう1人が帰宅したのは、およそ1時間後。少し急いたような足音に続いて扉が開かれた。
「ただいま」
 息が切れていないのは、日ごろの鍛錬の成果だろう。
 しかし、撫でつけられて整っていたはずの金色の髪は、はらはらと乱れていたし、
夏日を思わせる陽気だった昼間に比べると幾分涼しくなったにも拘らず、その額には汗が滲んでいた。
「お帰り、早かったね」
 自分が予想したよりも1時間ほど巻いての帰宅に、烈はソファから腰を浮かせて夕食を温め始める。
「そりゃもう。エレベーターの待ち時間も惜しんで帰ってきたからな」
 ブレットもネクタイを緩めながら答えた。
「他ならぬレツの誕生日だ。文字通り、寸暇も無駄にはしたくない」
「毎年のその努力には頭が下がるよ……有難うな」
 言いながら烈が2人分の食事をトレイに載せて運ぼうとするのを、ブレットが緩やかに遮り、
トレイを手に取る。
「どういたしまして」

 夕食後の洗い物を終えたブレットが、揃いのカップにコーヒーを淹れてリビングに来たのを見計らって、
烈は今日届いたばかりのディスクをセットし、ソファに並んで座るよう促した。
「これ、Jくんから。僕もまだ観てないんだけど、すごく貴重な資料だってさ」
「彼もすっかり土屋研究所の主力だな……」
 誘われるまま隣に腰を下ろしたブレットは、リモコンに手を伸ばして再生ボタンを押し、
ディスクが収まっていたケースに視線を落とした。
 真っ白なジャケットには、“第1回”に続くアルファベットが3文字。

「W・G・P……」

 それが何の略称であったかを思い出し、固まってしまったブレットの耳に、モーター音と歓声が飛び込んでくる。
「あぁ……」
 口をついて出たのは、ただ感嘆を表す言葉。 


 目の前の画面には、“幼い”と形容して差し支えのない自分やライバルたちがいた。
 マシンを追って、追って、追って。
 あっという間に駆け抜けて過ぎてしまった日々が、鮮明な姿でそこにあった。
 互いに画面に目が釘付けで表情は伺えないが、多分、烈もブレットも穏やかな顔をしているだろう。

 テーブルの上でリモコンを握りしめていた手が、ふと温かくなる。
 烈の手が重ねられたのだと気が付いて、ブレットはゆっくり指を開き、リモコンを開放した。
 再生が終わる頃には、重ねられた手は同じ温度になっていた。


「……研究の合間を縫って、高解像度リマスタリングしたんだって。あの頃はビデオテープだったから、
ダビングしてもらったのを何回も観て研究したっけな」
「ビデオテープか、懐かしいな。今となってはオペレーションルームとのやりとりすら、隔世の感がある」
 ブレットは空いている方の手で、すっかり冷えてしまったカップをとり、乾いていた喉をコーヒーで潤した。

「子どもの頃の自分を観たからかな。ひとつ齢をとったはずなのに、何だか気持ちだけはあの頃に戻ったみたいだよ」
 同じく空いている方の手をカップにのばしながら、烈が呟く。
「それはどうしたものかな」
 ブレットは掌を返し、重ねられていた手に指を深く絡めた。
「あの頃のレツも魅力的だが、いつだって目の前の最新のレツが、俺の最高のレツだからな」
 掴んだカップをやんわりテーブルに戻され、続いて予測通りの行動を実行に移したブレットに、
烈は目を瞑ったまま笑った。

 昔はコーヒーがあんなに苦かったのに、いつの間にか砂糖が要らなくなったのは。
 与えられる言葉と行動、どちらに原因があるのやら。

「きっとどっちも、なんだろうね……」


   fin.

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お久し振りです。
小説もどきを書くのも多分数年振りです。
烈誕&ブルーレイ化記念。めでたいです。ハピバ!
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